漢の高祖に仕える張良は夢の中で異形の老人と出会い、兵法を伝授してもらう約束をします。とても夢とは思えなかったので、約束の五日後にその場所に行くと、老人は先に来ていて張良は遅参を責められます。もう一度約束して五日後、今度は先着した張良は、威儀を正して現れた黄石公と名乗る老人から激流に投げられた履を拾えと命じられます。張良が飛び込むと大蛇が現れ先に履を取ってしまいますが、張良は剣を抜いて大蛇と争い、遂に履を取り上げ、黄石公に捧げると秘伝の巻物の伝授を受けることが出来たのでした。
旅の僧が、摂津国江口の里にやって来ます。昔西行法師がここにて宿を借りようとして断られ、その時詠んだ歌を僧が口ずさんでいるところを、若い女が呼び止めます。女は宿を断った理由を正しく説明し、自らは江口の里の遊女の霊であると明かし、消え去ってしまいます。僧が夜もすがら回向していると、淀の川瀬に浮かぶたくさんの屋形舟の中にひときわ神々しい遊女たちが現れ、万物の流転、人生の儚さを嘆き舞を舞い、僧の前で普賢菩薩の姿となって白象に乗って西の空に去って行きます。
楊子の市で酒を売る孝行の男、高風の処に、いつも立ち寄り酒を飲んで行くものがあった。不審に思った高風が名を尋ねると、海中に住む「猩々」と答え親孝行な高風に、酌めども尽きぬ酒壷を与えるので瀋陽の江まで来るようにと言います。高風が瀋陽の江で待っていると、猩々が現れ、舞を舞って去って行きます。能は高風が瀋陽の江に行くところから始まり、「猩々」の常の中ノ舞が、波の上を戯れるような特殊な足遣いをする「乱」という舞に変わり、そのまま曲名にもなりました。
無断で旅に出た太郎冠者を叱りにきた主人は、京都見物をしてきたというので気を取り直して都の様子を尋ねる。太郎冠者が祇園に向かう途中、道端の菊の花を頭に挿し歩いていると、通りかかった美しい上臈から歌を詠みかけられたので、返歌をし、誘われるままについていったというのだが…。 ある程度の年齢に達して演じる年齢物。風流な味わいのあるシテの一人語りが中心になります。