法然上人は賀茂の明神に参詣の折に、捨てられていた男の子を拾います。その子が十歳になったとき、説法に集った聴衆に尋ねると母親が名乗り出、父親は一の谷で果てた平敦盛であったことを明かします。夢でも父に逢いたいと願う子は賀茂の明神に社参し、告げを受け僧も同道して生田の森に下ります。日が暮れて宿を探す二人は一軒の庵で、我が子に会うため冥宮から戻って来た在りし日の姿の敦盛の霊と対面します。父を慕ってすがりつく子を宥め、平家の運命を語り、舞を舞って、また修羅道の巷に帰って行きます。
旅の僧が都に上り六条河原の院の旧跡を訪ねると、塩汲みの老人に会います。塩汲みとはと不審に思った僧が尋ねると、老人は河原の院に昔、源融の邸が在ったこと、難波の浦から毎日潮を汲んで都に運ばせ、ここで塩を焼いて陸奥の塩釜の風情を楽しんだ融大臣の事を語り、昔を懐かしみます。僧の求めに応じて名所の数々を教えた老人は、最後に汐を汲んで見せると桶を残して消え去り、廃墟に佇む僧の夢中に、在りし日の融大臣となって現れ、月下に舞を舞います。小書「遊曲」は、前半は変わらず、後半「早舞」の初めに特殊な型が入ります。
大峰山、葛城山での修行を済ませ出羽の羽黒山へ戻る途中の山伏が、おなかが空いてふと見つけた柿の木に登って柿を食べています。そこへ見回りに出て来た柿主が、山伏を見つけ懲らしめてやろうと鳥だ、猿だと言うと、山伏はその鳴き声を真似ます。すると今度は鳶だと言って「飛ぼうぞよ」とはやすので、その気になった山伏は木から落ち、腰を打ってしまいます。山伏は看病せよと言いますが、柿主は断るので、法力を見せようと…。
駿河国清見ガ関に住む女は、我が子の千満が行方知らずになってしまったので、都に上り清水寺に参籠して祈っていました。観音の霊夢を得た女は、夢を占う者の言葉に従い、直ぐに近江国三井寺へ向かいます。一方、千満は三井寺の僧の元に居り、八月十五夜の月を見るために一同で庭に出ていました。狂女の態でそこに現れた女は、月を愛で、鐘を撞こうとして僧に止められますが、中国の故事を引いて僧をやり込め鐘を撞きます。その姿に母と気づいた千満が声を上げ、母も気づいて二人はめでたく再会します。
本山三熊野の山伏達が、羽黒山を目指してやって来ます。木曾路にかかると、薪を負った老人が現れ紅葉の木陰に休みます。山伏は言葉を交わし、黒主や業平の歌を引き、龍田や嵐山、高尾などの紅葉の名所の話をして、今宵ここで夜を明かせば、また現れて慰めようと言って谷深く分け入って行きます。その夜の山伏の夢に末社の神が現れ、先程の老人は悪鬼の化身であると告げます。山伏達が三熊野権現を勧請して祈っていると雲の中から悪鬼が現れ襲いかかりますが、山伏達の必死の祈りに、退散し消え去ります。
大酒飲みで怠け者、パワハラまでする妻が里帰りしたのを幸い、離縁状を送りつけた男は、新しい妻を得るため、五条の因幡堂の薬師如来に妻乞いの祈誓を掛けに行きます。激怒した妻は因幡堂に駆け付け、通夜(終夜の祈願)をしている夫に、「西門の一の階に立った女を妻にせよ」と偽のお告げをします。そうとは知らぬ夫は西門の一の階に被ぎ(身分のある女性が顔を見られぬよう、頭から被った衣服)姿で立っている女を見つけて大喜び、早速連れて帰って婚礼の盃を交わしてしまいます。