六月 宝生会定期公演

◇午前の部◇2025年6月21日(土)11時始

能「加茂」

播州「室の明神」の神職は、同一体の由緒を持つ都の「下加茂神社」にやって来ます。そこには白木綿を廻らし、白羽の矢を立てて祭ってあり、折しも水を汲む二人の女性に行き逢い、その謂れを尋ねると、その白羽の矢こそ加茂の明神誕生の起源でした。即ち、水汲む女性の水桶に、流れて来た矢を家に持ち帰って飾って置くと、女性が懐妊し、その子が三歳になった時、天に上がり別雷の神になったのでした。二人の女性は神であることを仄めかして去り、後半は御祖の神が天女の舞を舞い、別雷の神が豪快に豊穣を寿ぎます。

シテ 東川尚史


能「歌占」

初めに父の病気の容態を知りたい男と、父の行方を尋ねる子が登場します。不思議とよく当ると言われる歌占いの神主に占ってもらおうと待っているところに、いくつもの短尺を下げた小弓を持ち、髪の真っ白な神主が行き逢います。男は神主に声をかけ、早速占ってもらうと、神主は男の選んだ短尺の歌を元に、重篤な病気ではないから心配はいらないと告げます。父の行方を尋ねる子も続いて占ってもらうと、父には既に会っているという卦が出、その神主こそ父であることがわかり、神主は地獄の有様をクセ舞に舞い、一緒に故郷へ帰って行きます。

シテ 渡邊茂人

狂言「茶壷」

中国地方から京の栂(とがの)尾(お)へ茶を買い付けに来た男、帰りに昆(こ)陽(や)野(の)の宿(しゅく)で知り合いに酒を飲まされて酔いつぶれ、往来で寝込んでしまいました。その様子を見たすっぱ(詐欺師)は男が背負っている茶を詰めた壺を自分の物のようにしてしまいます。目を覚ました男は大騒ぎ、どちらも自分の物と譲らないので、二人はそれぞれ、目代(代官)の前で茶壺の入日記(いれにっき)(荷造りした商品の中に入れておく目録)の内容を申し上げることになりました。

◆午後の部◆2025年6月21日(土)15時半始

能「杜若」

今を盛りと咲き誇る杜若。三河の国八橋を訪れた僧は、一人の女に呼び止められます。女は業平が東下りの途中で、この八橋で詠んだ杜若の歌の話をし、自宅へ僧を招きます。その夜、女は昔、業平が宮中での豊明節会で身に着けた高子の后の美しい衣と、冠を身に着けて現れます。不思議に思う僧に、女は我こそは杜若の精であると明かし、業平の東下りの様を舞って見せ、草木国土悉皆成仏の喜びを僧に告げると、夜の白むと共に消え失せます。小書「沢辺之舞」では常の初冠に「日陰之糸」を付け、真之太刀を佩き、より業平の姿に近くなります。序ノ舞の中で橋掛りへ行き、一の松の辺で咲き乱れる杜若をじっくり見回す型を見せ、舞台に戻って舞い続けます。

シテ 内田朝陽


能「大江山」

源頼光とその一行は、帝の命を受け酒呑童子という鬼を退治するために、大江山深く分け入り、途中で出会った洗濯女の手引きで館に宿を求めます。酒呑童子は出家には手を出さない約束があって、童子そのままの姿で頼光達に対面し、大江山に来ることとなった次第を語り、酒を勧め自らも呑み、大いに酔って油断して寝所に入ってしまいます。頼光達が寝所に攻め込むと童子は鬼の本体を現し、恐ろしい姿で戦いますが、ついに退治されてしまいます。

シテ 金森秀祥

狂言「膏薬煉」

中世の膏薬とは患部に塗って体内の毒素を吸い出す薬、吸い寄せる力が強いほど優れた効能があります。自分の膏薬ほど強いものはないと自負する鎌倉の膏薬煉(薬屋)は都にも強力な膏薬があると聞き、どちらが強いか確かめるため、都へ向かいます。やはり自分がいちばん強いと思う都の膏薬煉も噂に聞く鎌倉の膏薬と吸い比べをしようと鎌倉へ赴きます。途中の街道で出会った二人は早速、先祖より伝わる膏薬の由来や薬種の成分を披露し、どちらが強いか勝負を始めます。